2026年6月12日、マイケル・ジャクソンの人生と音楽を描いた伝記映画『Michael/マイケル』が、ついに日本公開されます。
これを機に、マイケルの楽曲が再び脚光を浴び、キング・オブ・ポップに関する逸話が次々と話題になっています。
中でも今、世界的な関心を集めているのが、2014年の遺作アルバム『Xscape』に収録され、TikTokでのバイラルをきっかけにSpotifyで6億5,000万回以上の再生を記録している楽曲「Chicago」にまつわる秘話です。かつてマイケルが、最大のライバルと目されていたプリンスとの「幻の共演MV」を熱望していた事実が、当時のプロデューサーの証言によって明かされました。
幻のミュージック・ビデオ構想とプリンスの存在
楽曲「Chicago(原曲: She Was Loving Me)」の誕生
「Chicago」はもともと、2001年のアルバム『Invincible』の制作セッション(1999〜2001年)において、「She Was Loving Me」というタイトルで録音されていた楽曲でした。
プロデューサーのコーリー・ルーニーが、マイケルの信頼する作詞家キャロル・ベイヤー・セイガーから「マイケルは物語性の強い曲でこそ本領を発揮する」との助言を受け、二重生活を送る女性をテーマにしたドラマチックな物語を描いた楽曲を書き下ろしました。
マイケルが描いたMVのコンセプト
マイケルはこの曲を非常に気に入り、独自の具体的なMVコンセプトを思い描いていました。ルーニーは、マイケルが語った興奮に満ちたアイデアをこのように回想しています。
“At the end of the video, two limos pull side by side, Michael rolls his window down and then the other limo rolls down its window — and it’s Prince.”
「ビデオの最後に、2台のリムジンが横並びに停まるんだ。マイケルが窓を下げると、もう一方のリムジンも窓を下げる――すると、そこにいるのはプリンスなんだ」
当時、世間がライバル関係として捉えていたプリンスを、映像の最大のクライマックスにサプライズ出演させるという、極めて野心的な演出を計画していたとのこと。
お蔵入りに
しかし、制作期間が長期に渡った事、数多くのプロデューサーの介在、クリエイティブの方向性の調整などにより、曲は最終的に収録リストから外れ、長い間お蔵入りとなってしまいました。そのため、このビデオ構想が実現することはありませんでした。
「Bad」の失敗を経てなお続いたリスペクト
マイケルがプリンスに共同作業を申し込んだのは、これが初めてではありません。
1987年のアルバム『Bad』のタイトル曲でも、デュエットを打診していました。
しかしこの時、プリンスは歌詞の冒頭「Your butt is mine」に難色を示し、「これを誰が誰に向かって歌うんだ?」と疑問を呈してオファーを断ったという有名な逸話があります。(下の動画の14分あたり)
Chris Rock(クリス・ロック):
"I love the story of how you turned down an offer to appear in Michael Jackson's music video for, 'Bad'."
「マイケル・ジャクソンの『BAD』のミュージック・ビデオへの出演オファーをあなたが断ったという話、僕、大好きなんですよね」Prince(プリンス):
"Well, you know that Wesley Snipes character? That would've been me."
「まあ、あのウェズリー・スナイプスが演じたキャラクターがいるだろ? あれは僕になるはずだったんだ」"Now you run that video in your mind. The first line in that song is 'Your butt is mine.' Now I said, 'Who's gonna sing that to whom?'"
「そこで、あのビデオを頭の中で思い浮かべてみてほしい。あの曲の最初の歌詞は『お前のケツは俺のもの(Your butt is mine)』だ。だから僕はマイケルに言ったんだ。『これを誰が誰に向かって歌うんだい?』とね」"'Cause you sure ain't singing it to me, and I sure ain't singing it to you… so right there we got a problem."
「だって、君が僕に向かってそれを歌うわけがないし、僕も君に向かって歌うわけがない。だから、その時点で僕らには問題があった(実現不可能だった)のさ」
「Your butt is mine」スラングとしてのニュアンス
マイケル・ジャクソンの「Bad」の冒頭を飾る "Your butt is mine"(通常は "Your ass is mine")は、直訳の「お前のケツは俺のもの」以外に、ストリート・スラングとして大きく分けて2つの強力なニュアンスを持っています。
- 「お前の悪だくみはすべてお見通しだ」
相手が隠れて悪さをしているのを暴き、追い詰めた時に使う表現です。
ニュアンス: 「もう逃げられないぞ」「しっぽは掴んだ」「お前は俺のコントロール下にある」
日本語訳: 「お前のやることはお見通しだ」「言い逃れはできないぞ」 - 「お前をぶちのめしてやる」
ケンカや対決の前に、相手を圧倒・支配することを宣言する威嚇の表現です。
ニュアンス: 「I'm gonna kick your butt(ぶちのめす)」をより決定的な形にした「お前は俺の獲物だ」という勝利宣言。
日本語訳: 「お前をボコボコにしてやる」「勝負はついた」
マイケルの意図 と プリンスのツッコミ
◯マイケルの描いた「ストリートの対決」
「Bad」のMVでストリートギャングの対峙を描いたマイケルは、上記の2つのスラング、つまり「お前たちの悪だくみはお見通しだ(1)、実力でボコボコにしてやる(2)」という極めてタフな威嚇のセリフとして、この言葉を自然に使っていました。
◯プリンスが感じた「奇妙なすれ違い」
プリンスが受け取った時点ではミュージック・ビデオも存在しませんし、マイケルが歌詞についてどこまで説明したか不明です。
その状況で、言葉通りに受け取ると「お前のケツは俺のもの」という肉体的(あるいは性的)なダブル・ミーニングとして解釈される余地が残ります。
カリスマ的なスター2人が狭い地下鉄の駅で睨み合いながら、
マイケル:「お前のケツは俺のもの(お前を支配してやる)」
プリンス:「いや、お前のケツこそ俺のものだ」
と交互に歌い合う構図を想像したプリンスは、「これじゃあケンカの威嚇じゃなくて、別の怪しい(セクシーな)空気になっちゃうだろ(笑)」と、その絶妙なユーモアセンスでツッコミを入れ、出演を断ったと考えることもできます。
プリンスは楽曲提供を提案するも実現せず
プリンスは代わりに「Wouldn't You Love To Love Me?」の提供を持ちかけますが実現せず、この曲はタジャ・シヴィルに渡されました。
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参考マイケル・ジャクソンが幻のMVで計画していたプリンスとの共演
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「Bad」での破断から十数年が経った1999年のセッションでも、マイケルは依然としてプリンスとの共演を強く望んでいました。
二人の間には、単なるライバル関係を超えた深いリスペクトと、最高のエンターテインメントを共創したいというマイケルの強い願いが存在していたことが、改めて浮き彫りになったと思います。
記事
プリンスを起用するという点について書きましたが、Variety誌の記事には「She Was Loving Me」について更に詳しく掲載されています。
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How Michael Jackson's 'Chicago' Went From Leftover Track to Viral Hit
variety.com