シングル情報
Released:2005/9/3 (npgmc dounload),2005/10/25 | Label: NPG Records, Columbia,SME
Track List
- S.S.T. (3:39)
- Brand New Orleans (6:37)
Personnel
Produce, Arranged, Composed
- Prince
リリースの経緯
2005年8月末、アメリカ南部を未曾有の超大型ハリケーン「カトリーナ」が直撃し、特にルイジアナ州ニューオーリンズは壊滅的な被害を受けました。
世界各国で救援活動が行われましたが、特に被害のあったニューオーリンズが“ジャズ発祥の地”だけあって、R.ケリー、ハリー・コニック・ジュニア、スティング、エルトン・ジョン、レニー・クラヴィッツ、ジェームス・ブラウン、コールドプレイ、カニエ・ウェスト、ノラ・ジョーンズ、ワイクリフ・ジョン等が参加したチャリティ・アルバム『Hurricane Relief: Come Together Now』が11月22日にリリースされました。
そうした音楽界全体の支援プロジェクトが立ち上がる中、プリンスの行動力とスピード感は突出していました。
ペイズリー・パーク・スタジオで被害の惨状を目の当たりにしたプリンスは、シャーデー(Sade)の「The Sweetest Taboo」(1985年)を聴きながらインスピレーションを受け、8月29日の上陸から数日後の9月2日早朝、全楽器を自ら演奏して緊急レコーディングを敢行。なんと録音から24時間も経たない翌9月3日には、自身の公式サイト〈npg music club〉「NPG Music Club」にて「S.S.T.」の先行ダウンロード販売を開始しました(同時にカップリング曲「Brand New Orleans」もVIPルームにてストリーミング公開)。

2日後の9月5日には、プリンスがかつて楽曲提供・プロデュースを手掛けたメイヴィス・ステイプルズの「You Will Be Moved」(1993年『The Voice』収録)を加えた3曲バンドル配信へと拡大。すべての収益は「ハリケーン・カトリーナ救済基金」へと全額寄付されました。
レコード会社の手続きや合議を一切介さず、悲報からわずか数日で曲を書き上げ、自らのインフラ(NPGMC)を通じて世界中のファンに届け、直接支援へと繋げる――この電光石火のフットワークこそ、当時のプリンスにしか成し得ない真骨頂と言えます。
なお本作は、配信から約8週間後の10月25日にアメリカ国内で2曲入りCDシングルとしてもフィジカル発売。
CD化によってようやくチャート反映されたためBubbling Under Hot 100で実質111位(Bubbling Under 11位)とトップ100入りは逃したものの、ここでのチャートアクションはもはや些細な問題です。悲劇を前にして一切の躊躇なくスタジオへ入り、翌日には全世界へ祈りと支援のメッセージを放った彼のスピードと信念ある行動は、心から称賛すべき出来事でした。
レビュー
本作はアートワークの秀逸さも見逃せません。
普段であれば自らのポートレイトや象徴的なシンボルを前面に出すところですが、青空を背景にした「HURRICANE EVACUATION ROUTE(ハリケーン避難経路)」の実物道路標識をそのまま中央に据えています。
装飾を極限まで削ぎ落としたこのシンプルなビジュアルは、被災地が直面している現実と切迫感を何よりもダイレクトに物語っています。また、無機質な標識でありながら、上を指す白い矢印は過酷な状況の中で「進むべき道」「生き抜くための道標」を静かに示しているかのようでもあります。
タイトル文字「S.S.T.」にあしらわれた水面のテクスチャを含め、商業的なデザインを超えて「いま何を最優先に伝えるべきか」というプリンスの強い意志がストレートに伝わってくる、見事なアートワークです。
S.S.T.
タイトルの「S.S.T.」は、制作時に聴いていたシャーデーの曲にちなんだ「Sade's Sweetest Taboo」と、ハリケーンの発生・発達予測に欠かせない科学用語「Sea Surface Temperature(海水面温度)」という2つの意味を持つダブル・ミーニングです。
歌詞冒頭でも “There’s a quiet storm, and it never felt like this before / Like Sade’s song, it’s the sweetest taboo” と歌われ、メロウなR&Bのサブジャンル「クワイエット・ストーム」と実際の猛烈な暴風雨をかけ合わせつつ、シャーデーのタイトルを美しく引用しています。
サウンドは、当時のプリンスらしいオーガニックでタイトなファンク・グルーヴ。ワンマン録音ならではの親密で引き締まったアンサンブルに乗せて、地球温暖化をはじめとする環境問題への警鐘と、未曾有の災害に対する政府の初動の遅れへの静かなプロテスト(怒り)、そして被災地への祈りが歌い込まれています。
Brand New Orleans
「S.S.T.」のアウトロで聴くことができる心地よいインスト・ジャムをそのまま引き継ぎ、同日(9月2日)の同じセッションで長尺のファンク・ナンバーへと発展・昇華させたインストゥルメンタル・トラックです。
こちらもプリンスが全楽器を一人で演奏。ニューオーリンズという偉大な音楽の都が受けた深い傷に心を寄せつつ、タイトル通り「Brand New(真新しく生まれ変わる)」街の復興と再生へのエネルギーを注入するかのような、しなやかで力強いグルーヴが刻まれています。
