2018年からNetflixで進められていたプリンスのドキュメンタリー作品ですが、プリンスの遺産管理団体(エステート)側は、ある出来事が "センセーショナルに "扱われ、事実確認が適切になされていないと遺産相続人が強く感じており、現在「暗礁に乗り上げた」状態になっていると報じられました。
プリンスのドキュメンタリー制作から現在まで流れ
エイヴァ・デュヴァーネ監督の起用
Netflixがプリンスのドキュメンタリーを制作しているという第一報が出たのは2018年で、監督は2014年公開の映画『グローリー/明日への行進 (SELMA)』でゴールデングローブ賞監督賞そしてアカデミー賞作品賞と共にアフリカ系女性監督として初めてノミネートされたエイヴァ・デュヴァーネイ(Ava DuVernay)が務めると報じられました。。
参考Netflixで制作されるプリンスのドキュメンタリー作品の情報
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この時点で発表された内容は
- 6エピソードで構成(予定)
- 関係者による証言ではなく、ペイズリー・パークから権限を与えられ膨大なアーカイブの中からプリンス自身のインタビューや映像を使用
- 本作はこれまで公開された他のドキュメンタリーとは一線を画する最も包括的な作品
- プリンス自身の言葉を使う事でより正確な作品
監督は今回のプロジェクトに対し
The only way I know how to make this film is with love. And with great care.
この映画を作る唯一の方法は、愛を込めて作ることです。そして細心の注意もね。
と誠意を持って取り組みました。
2019年エイヴァ監督降板
順調にプロジェクトが進行していたかに思えましたが、2019年4月21日にエイヴァ監督はTwitterに
"Paint a perfect picture. Bring to life a vision in one's mind. The beautiful ones. Always smash the picture. Always every time." #Prince xo
「完璧な絵を描く。心の中のヴィジョンに命を吹き込む。美しいものを。常に映像を打ち砕け。いつもいつも。」 #プリンス
と意味深な発言を投稿(現在は削除)。4ヶ月後となる2019年8月16日にエイヴァ監督が降板した事が報じられました。
参考Netflixで制作予定だったプリンスのドキュメンタリー作品から監督が降板
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“I like to surprise,” DuVernay says, avoiding specifics. She does note she’s no longer working on Netflix’s multipart Prince documentary, saying she had “creative differences” with the company after working for a year on the project. “It just didn’t work out,” she says. “There’s a lot of beautiful material there. I wish them well.”
「私は驚かせるのが好きなの」とデュヴァーネイは言い、具体的な説明は避けた。彼女は、Netflixのプリンスのドキュメンタリーに1年間携わった後、同社と "創造性の違い "が生じたと述べ、現在はこのプロジェクトに携わっていないことを明かした。「うまくいかなかったの。「そこには美しい素材がたくさんあります。彼らの幸せを祈っています」。
エズラ・エデルマン監督を迎え再始動
エイヴァ監督が正式に解任された日付は不明ですが、後任には約8時間に及ぶ壮大な記録映画『O.J.:メイド・イン・アメリカ』(2016)を手掛けたエズラ・エデルマン監督を迎え、2023年公開を目指し再始動します。
2022年には、『クラークス』(1994)や『ドグマ』(1999)などの監督で役者としても知られるケヴィン・スミス監督がガーディアン誌の記者の質問に対し、2001年にプリンスに制作を依頼されるもお蔵入りとなったドキュメンタリー映像について"Finally Going to See the Light of Day(ついに日の目を見る)"と語り、期待値を煽りました。
参考ケヴィン・スミスが監督しお蔵入りになったプリンスのドキュメンタリー映像が日の目を見るかも!?
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暗証に乗り上げた原因は当初より3時間のオーバーとセンセーショナルな内容?
前置きが長くなりましたが、pagesixは2024年7月16日のニュースで遺産管理団体は、9時間という長さをめぐり、何年もかけて制作されたドキュメンタリーにサインしない予定であると報じました。
Prince estate, Netflix at standstill over 9-hour documentary
pagesix.com
冒頭に書いた通り、2018年に結ばれた契約では6時間のシリーズが予定されていたが、エズラ・エデルマン監督の最終カットでは3時間長くなっており、遺族側は最初の合意に違反していると考えているようです。
この”3時間”が制作費の問題なのか、配信にかける際の障害になるのかは不明ですが、ネットフリックス側は「confident a compromise can still be worked out(まだ妥協点を見いだせると確信している)」と折衷案を模索中ですが、当のエデルマン監督はアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞に輝いたキャリアの持ち主で8時間と長尺ドキュメンタリー制作に長けているだけに「not interested in a truncated version(切り捨てられたバージョンには興味がない)」と短縮にされれば降板する勢いです。
遺産管理団体(エステート)側の言い分
7月18日、前述の報道に対し遺産管理団体(エステート)側はvarietyの取材に対し「事実と異なる ”劇的な ”不正確さがあり、彼の人生のある出来事について ”センセーショナルに ”描かれている」と時間よりも内容に問題があると答えました。
Prince Documentary Delayed Due to Factual Inaccuracies
variety.com
エデルマン監督は先日関係者向けにドキュメンタリーのファーストカット(編集版)を制作しました。
この内容に対し、遺産管理団体は”ある出来事”が ”センセーショナル”に扱われ、事実確認が適切になされていないと遺産相続人が強く感じており、その主張がエデルマンの反対に遭ったと報じました。
別の情報筋によれば問題はむしろ問題はむしろ監督の「control (コントロール・統率・仕切り...)」にあり、エステートはドキュメンタリーが十分に肯定的ではないと感じていると語っています。
ようはエステートが思い描くドキュメンタリーではなかったという事ですが、この発言は監督を信頼していないという他ありません。
監理人は沈黙を貫く
今回の報道に対し遺産管理団体の一人、チャールズ・スパイサー(Charles Spicer)は7月18日、Xに以下の投稿するもバッシングに合い即日削除。
The length has nothing to do with it, it’s straight.🗑️
We have a duty to honor and protect his legacy with a story that fairly shows his complexities as well as his greatness.尺なんて関係ない、ストレートなんだ。
私たちには、彼の偉大さだけでなく複雑さも公平に示す物語で、彼の遺産を称え、守る義務がある。
タイカ、オマー、アルフレッド達3人の持ち分を買い取ったアドバイザーである、L.ロンデル・マクミラン(L. Londell McMillan)も沈黙を貫いています。
参考プリンスの財産を巡り相続人が再び訴訟へ
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6月にミネアポリスで行われた〈セレブレーション〉でもドキュメンタリーに関しては計画があるだけに留まっていました。
参考音楽評論家ジョン・ブリーム氏による〈プリンス・セレブレーション2024〉レポート
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個人的には,,,
エズラ・エデルマン監督は実績も申し分なく、契約に背いていると判っていても3時間オーバーの内容に絶対の自信があったと思います。
2004年のRock and Roll Hall of Fameのプレゼンターとしてアウトキャストと登場したアリシア・キーズの言葉を思い出しました。
"Let me just begin, there are many kings. King Henry VIII, King Solomon, King Tut, King James, King Kong, The Three Kings; but there is only one Prince."
(始めに言っておきますが、王様はたくさんいます。ヘンリー8世、ソロモン王、ツタンカーメン王、ジェームズ王、キングコング、三人の王、しかし、王子は一人だけです。)"Only one man who has defied restriction, who’s defied the obvious and all the rules to the game, mysterious figure.”
(ただ一人、制約に反して、当たり前のことやゲームのルールをすべて覆してきた男、神秘的な人。)
プリンスは決して聖人ではなく、ただただ純粋で目指す目的の為には恐れる果敢に攻めたアーティスト。例えどんな内容だろうと構わないので監督の全身全霊の作品をそのままの形で放送して欲しいです。