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『CALABAMA EP』緊急リリース ―― 本来の姿を取り戻した「Vault Raw」

未発表音源集『Timeless』のリリース以降、世界中のプリンス・コミュニティを揺るがせていた「Calabama」を巡る騒動。エステート側は公式声明を出すとともに、デジタル配信限定の4曲入りEP『Calabama EP』を急遽リリース(2026年10月9日)しました。

CLABAMA EP

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なぜこのEPが突如として世に出ることになったのか。
あらためてその経緯と、初公開となった「Vault Raw=未加工の生音源」の聴きどころを紹介します。

リリースまでの流れ:発覚から緊急リリースへ

事の発端は、アルバム『Timeless』に収録された「Calabama」のクレジット表記でした。
2003年1月21日にペイズリー・パークで録音されたとされる楽曲にもかかわらず、ホーンセクションとしてクレジットされていたAdrian CrutchfieldとLynn Grissettは、プリンスと2012年以降に出会ったミュージシャンたちでした。

リリースパーティーでの虚偽説明

2026年8月28日、ペイズリー・パークで行われたリスニング・イベントにおいて、エステート代表のチャールズ・スパイサーは「何も足していないし、何も編集していない(Nothing was added, nothing was edited)」と明言。「プリンスがやった通りのオーセンティックな形」であると断言していました。

当事者の証言とエステートの自白

しかしリリース直後、参加メンバーのGreg Boyer本人が「2026年春に自宅スタジオでホーンを録音した」と公言。時系列の矛盾を隠しきれなくなったスパイサーは発言を撤回し、9月4日にはエステート公式が「プリンスの創作意図に沿って、後からホーンをオーバーダブした」と事実上の改変を正式に認めました。

グローバルな追及と「Celebration 2024」の証拠

Celebration 2024のリスニング・セッションで熱狂を呼んだ音源こそが、後付けホーンのない「生のオリジナル音源」だったという事実も浮き彫りになり、prince.orgやRedditをはじめとする国内外のファン・有志によるファクトチェックの輪が急速に拡大。「Calabamagate」として音楽プレスへも問題提起が波及する事態となりました。

「Calabama」については下記に詳しく掲載しています。

参考『Timeless』収録「Calabama」オーバーダブ問題をめぐる時系列と証言の記録

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こうした批判と追及に耐えかねたエステートは、「プリンスのVault(保管庫)を巡る議論を深めるため」という名目を掲げつつ、火消しを図る形で今回のEPを緊急リリースするに至りました。

リリースに際し、公式X(旧Twitter)には以下の声明が掲載されています。

Following the success of Timeless, the posthumous Prince album featuring 10 previously unreleased songs recorded across five decades, from 1977 to 2016, new EP of "Calabama" (with and without live horns) and "Prince and The Band" continues the conversation around Prince's Vault. Listen to the original raw recording without the added horns from former members of his band as well as two untouched bonus tracks of "Prince and The Band" (with Prince's inclusion of live horn sections), both of which were not included on the Timeless album.

1977年から2016年に至る5つの年代にわたって録音された未発表曲10曲を収録した、プリンスの遺作アルバム『Timeless』の成功に続き、「Calabama」(生ホーン追加版および非追加版)と「Prince and The Band」を収めた新しいEPは、プリンスの保管庫(Vault)をめぐる対話をさらに深めるものです。
元バンドメンバーによるホーンの追加がないオリジナルの生録音と、『Timeless』には未収録だった「Prince and The Band」の未加工のボーナストラック2曲(プリンス自身が生ホーンセクションを取り入れたもの)をお聴きください。

"Calabama" was the only track on Timeless with additional music added. Hear the similarities and differences firsthand and gain more insight into the process and the responsibility of releasing music from this one of a kind Prince Vault. Certain selected untouched Vault recordings will also be made available for listening purposes at Paisley Park as archival artifacts in 2027, offering visitors further insight into Prince's creative process.

『Timeless』において、音楽的な追加(オーバーダブ)が施されたトラックは「Calabama」のみでした。その共通点と相違点を直接聴き比べることで、唯一無二であるプリンスのVaultから作品をリリースするプロセスと、その責任についての理解を深めてください。 また、プリンスの創作プロセスへの理解をより深めていただくため、2027年にはペイズリー・パークにおいて、厳選された未加工のVault音源をアーカイブ展示物として試聴できるようにする予定です。

各曲のレビュー

01. Calabama

『Timeless』本編に収録されたバージョン。2026年春に録音された現代的な生ホーンが被せられています。単体で聴けば華やかに響くものの、2003年の録音物に対してホーンの音像・空間系エフェクトが過剰に浮いており、プリンス特有のミニマルな隙間が埋められてしまっている印象は否めません。

02. Calabama (Vault Raw)

後付けのホーンセクションを削ぎ落とした、保管庫に眠っていた本来のオリジナル・テイク。

中盤、プリンスが「Horns!」と2回叫んだ後に鳴り響くのは、生ホーンではなくプリンス自身が弾いたチープでソリッドなシンセサイザーのフレーズ(「Face Down」などにも通じるアプローチ)です。
「ホーン」とコールしながら、生ブラスではなくあえてソリッドなシンセサイザーでリフを刻む――これこそが、プリンスが自ら築き上げてきた“ミネアポリス・サウンド”の真骨頂です。
後から施された余計な上塗りが消えたことで、2003年当時のタイトで無駄のないミニマルなファンクの魅力と、プリンス本来の美学がダイレクトに息を吹き返しています。

03. Prince & The Band (Vault Raw 1)

『Calabama』の後半に引用されているラップ/リリックの母体となったスタジオ・セッション。Prince Vaultのデータによれば、本作はプリンスがほぼすべての楽器を手がけたマルチ録音(推定)とされています。

この『Prince & The Band』で展開されるバッキング・トラックは、後に映画『ハッピー フィート』に提供されゴールデングローブ賞主題歌賞を受賞した名曲「The Song Of The Heart」(2006年)のベースとなっています。跳ねるグルーヴと祝祭感に満ちたあの多幸感あふれるサウンドが、すでに2002年のセッションで確固たる形を持っていたことに気付かされる貴重なテイクです。

参考Happy Feet / ハッピー・フィート ('06)

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04. Prince & The Band (Vault Raw 2)

7分を超える圧巻のロングテイク・ジャム。Prince Vaultの推定クレジットによれば、メイシオ・パーカー(Sax)、ジョン・ブラックウェル(Dr)、ロンダ・スミス(B)、レナート・ネト(Key)、グレッグ・ボイヤー(Tb)、キャンディ・ダルファー(Sax)という、2000年代黄金期の鉄壁のNPGメンバーが集結したテイクとみられます。

スタジオに持ち込まれた食べ物の話や軽妙な冗談から始まり、中盤ではプリンスが「Blow some, Maceo!」「Don't stop!」と煽り立てメイシオの熱狂的なサックス・ソロが炸裂。 さらに後半ではダンスのステップ(「Slide!」)を指示しながらグルーヴをビルドアップしていくなど、まさにJB直系のバンドマスターとしてのプリンスの真骨頂が収められています。

今回のリリースが残した教訓と希望

結果として、手を加えられていない本来の「Calabama (Vault Raw)」と、そのルーツである貴重なスタジオ・セッション2テイクが公式に届けられたこと自体は、一人のリスナーとして率直に歓迎・評価したいところです。

しかし、忘れてはならないのは、この音源が世に出たのは決してエステートの自発的な善意によるものではないという点です。

「何も足していない」という嘘をつき、証拠を突きつけられて言い逃れができなくなると後付けで改変を正当化しようとしたエステートに対し、国内外のファンコミュニティが事実を丹念に積み上げ、毅然と異議を唱え続けたからこそ、彼らはこの「Vault Raw」を差し出さざるを得なくなりました。世界中のファンの正当な怒りと熱意が、エステートの頑なな姿勢を動かしたと言えます。

プリンスが遺した膨大なアーカイヴに必要なのは、他人の手による勝手なオーバーダブや改変ではなく、彼がテープに刻んだ音と意図に対する真摯な敬意と透明性です。今回の緊急リリースが、今後のカタログ管理における健全な教訓となることを強く願ってやみません。

なぜ今だったのか? ―― もう一つの背景(推論)

今回の電撃的なリリース劇について、もう一つ見逃せない重要な背景があります。それは、11月27日の「Record Store Day Black Friday 2026」で限定リリースが控えている未発表ライブ盤『3121 Las Vegas Live』の存在です。

参考【RSD Black Friday 2026】プリンス、2007年ラスベガス公演のライブ盤『3121 Las Vegas Live』が3LP/2CDでリリース

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このライブ盤(2007年1月20日のリオ・オールスイート・ホテル&カジノ公演)のハイライトの一つとして、同名曲「Prince & The Band」のライブ演奏が収められています。

『Timeless』における「Calabama」改変への批判が世界中でくすぶり続ける中で、同じ系譜を持つ楽曲を含む目玉ライブ盤を迎えることは、エステートにとっても大きなリスクだったはずです。批判を鎮静化させると同時に、RSD盤に先駆けてそのスタジオ原曲を世に出しておく――そうした商業的な布石と事態の収拾が重なった結果が、この異例のタイミングでの緊急リリースに繋がったのではないかと考えられます。

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