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サンダーキャットとプリンス――兄ロナルドの証言、映画の思い出、そして互いへのリスペクト

10月19日は、孤高のベーシスト/シンガー、サンダーキャット(Thundercat)(スティーヴン・ブルーナー)の誕生日です。

超絶技巧の6弦ベースと浮遊感あふれる歌声、ジャンルを飛び越えるスタイルを持つサンダーキャットですが、そのベースにはプリンスへの深いリスペクトがあります。
また、彼の実兄であるドラマーのロナルド・ブルーナー・ジュニアが、2013年初頭のダコタ・ジャズ・クラブ公演やペイズリー・パークでのリハーサルでプリンスと音を重ねた経験を持つこともあり、ブルーナー兄弟とプリンスの間には特別な縁がありました。
今回はサンダーキャットの誕生日を祝し、彼が語ったプリンスへの愛あるエピソードや、プリンス自身が彼に寄せた言葉をまとめて紹介します。

『The Current』が捉えた素顔:映画のツボと伝説のリハーサル(2017年)

2017年3月10日、アルバム『Drunk』のリリースに合わせてミネアポリスのラジオ局『The Current』を訪れたサンダーキャットは、スタジオでの生演奏とともに、同局の特別企画「Prince Remembered」のインタビューに応じました。

一番好きな曲は「My Love Is Forever」

マック・ウィルソンから「一番好きなプリンスの曲とその理由」を尋ねられたサンダーキャットは、迷わず1978年のデビュー・アルバム『For You』に収録されている「My Love Is Forever」を挙げました。

"My favorite song by Prince is 'My Love Is Forever'. It's off his first album. And the reason why is just because it seemed like a more innocent Prince.
I think the first album I actually got was the second one, the one where he had his hair flipped and he's butt naked on a horse [laughs]. And that was just amazing, you know, but then I went back and got the first album.
And when I got the first album, I listened to it and it was just, it was this younger dude that was like, you know, pouring his heart out.
And it was one of those things, when I got to that song, I just was like, 'Man, that's a guy that's like, in love with life'. And I could feel it, you know, in the song."

僕が一番好きなプリンスの曲は『My Love Is Forever』なんだ。ファースト・アルバムに入っている曲だよ。
なぜかって言うと、もっと“無垢な”プリンスに思えるからなんだ。
最初に手に入れたのは2枚目(『Prince / 愛のペガサス』)だったと思う。髪をなびかせて、馬の上で完全に裸になってるやつ(笑)。あれも本当に凄かったんだけど、そのあとファーストに遡って聴いたんだ。
そしたら、自分のすべてをさらけ出して心を注ぎ込んでいる若い男の姿があった。
そして『My Love Is Forever』を聴いたとき、『おいおい、この男は人生そのものを愛しているんだな』って感じて、それが曲の中からひしひしと伝わってきたんだよ

全ての楽器をほぼ一人で演奏し、弱冠19歳で作り上げたデビュー作の『For You』。ピュアな情熱と音楽への喜びそのものが溢れ出るような作品に、同じく若くしてベースに没頭したサンダーキャットは強いシンパシーと敬意を抱き続けたようです。

人生で一番笑った映画『Under The Cherry Moon』

マック・ウィルソンから「プリンスの大好きな思い出」を尋ねられたサンダーキャットが、リハーサルの裏話と並んで真っ先に挙げたのが、映画『Under The Cherry Moon』(1986年)でのワンシーンでした。

"There's this one scene in Under the Cherry Moon where him and Jerome are looking at each other, and it gets so intense and the camera starts zooming in... [laughs]
It is the funniest thing I've ever seen in my life. It was like, you know, like the communication between you and your homeboy, and it's like, it's hilarious, you know? It's that moment..."

『Under The Cherry Moon』の中に、プリンスとジェローム(・ベントン)がお互いを見つめ合うシーンがあるんだよ。どんどん緊張感が高まって、カメラがグーッとズームインしていくんだけど……(笑)
あれはもう、僕がこれまでの人生で見たものの中で一番面白かったね!
男友達同士の間にある、あの独特のアイコンタクトというか、ツーカーの空気感そのものでさ。とにかく最高に笑えるんだ。あのシーンがひとつ

ペイズリー・パークのリハーサル事件

2013年に兄のロナルド・ブルーナー・ジュニアがプリンスのバンドでドラムを叩いていたことから、話題は兄から直接聞いたペイズリー・パークでのリハーサル現場の裏話へと及びます。

"Andrew Gouché was slapping bass so much that Prince walked over to him and unplugged his bass and told him to go sit down and call Ida [Nielsen] from 3RDEYEGIRL to get up and play. [laughs]
Promptly after that, [Prince] walked over to Ronald and said something like, 'I like what you're doing between the hi-hat and the ride,' and he did this spin and walked off.
It was like everything embodied in one moment. Unplugged this guy, 'sit down', and he does a spin... He is that dude, you know? [laughs]"

「アンドリュー・グーシェイがあまりにもベースのスラップばかり弾いていたから、プリンスが歩み寄ってきて、ベースのシールドを抜いてしまったんだ。そして『座って見学していてくれ』と告げて、3RDEYEGIRLのイダ(・ニールセン)を呼んで『立ってプレイして』と交代させたんだよ(笑)。
その直後、プリンスはロナルド(兄)のところへ歩いてきて、『ハイハットとライドの間で君がやっているプレイ、いいね』みたいなことを言って、クルッとターンして去っていった。
あのワンシーンの中に、プリンスという人物のすべてが凝縮されていたよね。シールドを引っこ抜いて『座ってろ』と言い、ターンを決めて立ち去るんだから……まさに“あの人”そのものだよ(笑)」

このエピソードが物語る「空気感」と背景

短いエピソードですが、プリンスがバンドマスターとしてどのような規律とサウンドを求めていたのかが色濃く表れています。

  • ゴスペル/ベース界の巨頭に対する冷徹なディレクション
    シールドを抜かれたアンドリュー・グーシェイは、チャカ・カーンやグラディス・ナイトをはじめ数多くのレジェンドを支え、現代ゴスペル・ベースのゴッドファーザーとして崇められる超大物です。並のミュージシャンであれば意見することすら憚られるような大ベテランに対しても、自身の求めるアンサンブルの邪魔(過剰なスラップ)と判断すれば、感情を荒らげることもなく無言でシールドを引き抜き、淡々と交代を告げる。プリンスがいかに徹底した耳と絶対的な統率力を持っていたかがよく分かります。
  • タイトさを重んじるプリンスのベース美学
    技巧派のグーシェイを下げ、プリンスが指名したのが3RDEYEGIRLのイダ・ニールセンでした。音数を詰め込むスラップではなく、楽曲の骨格を強固に支えるシンプルでタイトなファンク・グルーヴを求めていたからこその采配と言えます。
  • シンバルワークへの的確なフィードバックと、華麗な立ち去り方
    現場を凍りつかせかねない交代劇の直後、プリンスはドラムのロナルドの元へ歩み寄り、「ハイハットとライドシンバルの間のフレージングが良い」と、極めてピンポイントかつ専門的なポイントを褒めています。バンド全体の細部まで完璧に聴き分けていることを示しつつ、最後はクルリとターンを決めてその場を立ち去る――その研ぎ澄まされた厳しさとダンディズムの同居に、サンダーキャットも思わず笑いながら「He is that dude(まさにあの人らしい)」と脱帽しています。
https://www.thecurrent.org/feature/2017/03/10/thundercat-performs-in-the-current-studio
https://www.thecurrent.org/feature/2017/03/10/thundercat-performs-in-the-current-studio

www.thecurrent.org

https://www.thecurrent.org/episode/2017/03/10/thundercat-a-guy-that-was-in-love-with-life
https://www.thecurrent.org/episode/2017/03/10/thundercat-a-guy-that-was-in-love-with-life

www.thecurrent.org

そのダコタ公演(2013年1月17日)にて、事前のリハーサルなしの完全即興で演奏され、3日後に3rdeyegirlの公式YouTubeでストリーミング公開された貴重なセッション「Chapter & Verse」。ロナルド・ブルーナー・ジュニアのタイトで切れ味鋭いドラムワークを聴くことができます。
※当時の公式アカウントは閉鎖されているため、こちらは有志によるアーカイブ音源となります。

プリンスからの賛辞:「あいつが参加してるんだから最高に決まってる」(2015年)

サンダーキャットからの敬意に対し、プリンスもまた彼の才能をはっきりと認めていました。
2015年、ケンドリック・ラマーの名盤『To Pimp a Butterfly』について語ったプリンスは、同作を称賛するとともに次のように述べています。

「彼(ケンドリック)には伝えるべき言葉がある。純粋なんだ。それに、あのアルバムにはサンダーキャットが参加しているんだよ?頼むよ、僕のプレイリストから(サンダーキャットがベースを弾く)『Alright』を外すことなんてできっこないね!」 (“And with Thundercat on the album? Come on. You're not taking 'Alright' off my playlist!”)

新世代のサウンドに常に耳を澄ませていたプリンスが、サンダーキャットのベースワークを自身のフェイバリットとして公言していた貴重な証言です。

Prince is a big fan of Kanye West and Kendrick Lamar • News • DIY Magazine
Prince is a big fan of Kanye West and Kendrick Lamar • News • DIY Magazine

diymag.com

兄弟で培ったプリンス・サウンドへの探求(2017年・2020年)

少年時代の原体験と音楽的ルーツ(The Nostalgia Mixtape / 2020年)

2020年4月に配信されたポッドキャスト番組『The Nostalgia Mixtape』に出演した際、サンダーキャットは「ノスタルジーを感じる思い出の1曲」として、プリンスの「The Beautiful Ones」を挙げています。

少年時代にこの曲と出会った彼は、プリンスの絞り出すようなファルセットやドラマティックなサウンド、そして曲の終盤に向けて感情が爆発していく表現の凄まじさに激しい衝撃を受け、文字通り打ちのめされたと振り返っています。彼にとってプリンスは、技巧やスタイル以前に「音楽に魂をすべて注ぎ込むことの凄み」を叩き込まれた原点であることがうかがえます。

The Thundercat Episode - The Nostalgia Mixtape
The Thundercat Episode - The Nostalgia Mixtape

thenostalgiamixtape.com

兄ロナルド・ブルーナー・ジュニアの証言(VICE / 2017年)

兄のロナルドはソロ作リリース時のインタビューで、幼少期から弟スティーヴン(サンダーキャット)と共に、名プレイヤーたちの演奏意図を研究し尽くしてきた家庭環境を語っています。ペイズリー・パークのステージに立った際も、プリンスが常に敬意を持って自分たちと接してくれたことを振り返っています。

Ronald Bruner Jr.'s Triumph
Ronald Bruner Jr.'s Triumph

www.vice.com

様々なジャンルを吸収し、独自のポップ・ミュージックへと昇華し続けるサンダーキャット。
その自由奔放で妥協のない音楽的アプローチの根底には、プリンスから受け取ったスピリットが脈々と息づいていると思います。

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