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Blog Column

『Timeless』収録「Calabama」オーバーダブ問題をめぐる時系列と証言の記録

アルバム『Timeless』のリリースを機に発覚した未発表曲「Calabama」の没後オーバーダビング(追加録音)問題について、発売日直前の公式説明から、参加ミュージシャンたちの証言、そして公式声明に至るまでの経緯を、判明している正確なタイムラインに沿って整理しました。
日付はすべて日本時間です。

Calabama

2026年8月28日:アルバム発売とペイズリー・パークでの公約

ペイズリー・パークで開催されたリスニング・パーティーにおいて、エステート共同管理人のチャールズ・スパイサー・ジュニア氏が登壇。「保管庫(Vault)の音源には何も足しておらず、何も編集していない(nothing added, nothing edited)」と来場者やファンに向けて明言しました。

以下スパイサー氏の発言

それでは第1問です。『Timeless』に収録されている楽曲に対して、変更や編集、補作、あるいはリミックスなどは、もし行われているとすればどの程度手が加えられているのでしょうか?

世間で色々と言われているかもしれませんが、それとは異なり、これらの音源はすべて、元々録音されていたフォーマットからそのまま取り出されたものです。何も追加されていませんし、編集も一切行われていません。

皆さんがよくご存じの曲でも、プリンス自身が別のヴァージョンを作っていたケースがあります。ですから、このアルバムで聴けるものは、実際にその曲のマルチトラック・マスターテープから起こした音源です。お馴染みのヴァージョンとは異なっているかもしれませんが、私たちはそうやって制作しました。AIなどは一切使用していません。彼がやっていたのと同じようにオーセンティック(忠実)に、ステム(※ドラムやボーカルなどパートごとに分かれた音源データ)を立ち上げてリミックスとリマスターを行っただけです。

2026年8月29日:クレジットの矛盾とエイドリアン氏の明言回避

パッケージがファンの手元に届くと、ライナーノーツには「2003年1月録音」と記載されている一方、クレジット欄には2012年以降にNPGへ参加したエイドリアン・クラッチフィールド、リン・グリセット、そしてグレッグ・ボイヤーの名が記載されており、録音時期との整合性を巡り大きな疑問が浮上しました。

Instagram上でファン(baron3121氏)から「君とリンはいつホーンを追加したのか。2016年以降(没後)ではないよな」と直接問われたサックス奏者のエイドリアン・クラッチフィールド氏は、「録音した曲が多すぎて数え切れない。今もプリンスと関われて幸せだ」と返答。直近の作業か生前のストックかについて具体的な時期の言及を避けました。

baron3121:
「ねぇエイドリアン、君とリン・グリセットはいつこのトラックにホーンを追加したんだい?」

エイドリアン・クラッチフィールド(realgoodsax):
「🤷🏽‍♂️ いやぁ……分からないよ。当時は手当たり次第にたくさんの曲を録音して、それっきり二度と聴いていない曲ばかりで、もう数え切れないんだ。今でもプリンスと関わりを持てているだけで僕は幸せだよ」

baron3121:
「@realgoodsax (エステート側に)嘘をごまかさせず正直にさせるため、そして君が2016年以降(プリンス没後)にホーンを追加したわけじゃないってことを確かめておきたかったんだ。最高だよエイドリアン🎷」

2026年9月1日:グレッグ・ボイヤー氏による「2026年録音」の証言

アルバムのライナーノーツには「2003年1月録音」と記載されている一方、クレジット欄には2012年以降のNPGホーンズであるエイドリアン・クラッチフィールドやリン・グリセット、そしてグレッグ・ボイヤーの名が記載され、ファンの間で疑問の声が上がりました。

トロンボーン奏者のグレッグ・ボイヤー氏が自身のFacebookにて、ファンからの質問に対し「数ヶ月前(2026年)に自宅スタジオで録音した」と回答。発売当日の公式説明とは異なり、プリンス没後に追加録音が行われていた事実が当事者から明かされました。

一部抜粋

recorded a couple of months ago in my basement studio. I haven't read the liner notes.
「数ヶ月前に自宅の地下スタジオで録音したばかりだよ。ライナーノーツは読んでいないんだ。」

(「オリジナルの録音には入っていなかったホーンが、このトラックに追加されたということですか?」という質問に対し)
correct.
「その通りだよ。」

three trombone tracks recorded earlier this year. Possibly paired up with older tracks from years ago.
「今年のはじめに、トロンボーンのパートを3つ(重ねて)録音したんだ。昔の古いトラックと組み合わせているのかもしれないね」

2026年9月2日〜3日:マイケル・B・ネルソン氏による証言

長年Hornheadsを率い、プリンスのホーン・アレンジメントを担ってきたマイケル・B・ネルソン氏本人が米掲示板Redditにて証言。今年の初めにエンジニアのクリス・ジェームズから追加録音の打診があったものの辞退した経緯や、生前の録音に対する自身のスタンスを明らかにしました。

書き込み1(自身の関与と『Bestest Friend』に関する最初の書き込み)

「今年の初めに、エンジニアのクリス・ジェームズから直接連絡があり、おそらく今回のホーン・セッションだと思われる件で呼ばれました。ですが、私は都合がつかなかったため、その倫理的な面について考える必要はありませんでした。しかし、この時期になって彼らが何かの曲にホーンを追加しようとしていることについては、非常に奇妙だと感じました。ただし、『Bestest Friend』に入っているホーンは、プリンスが生前、まだここにいた頃のセッションでのHornheadsのものであると断言できます」

書き込み2(他のユーザーからの「誰からセッションに呼ばれたのか?」という質問への返答)

「エンジニアのクリス・ジェームズからです。短いテキストメッセージでした。プロジェクトについての話し合いはしていません。」

書き込み3(別のユーザーからの「『Bestest Friend』のセッション日は2012年9月3日か?」という質問への返答)

「そのセッションの書類は手元にありませんが、彼が私に送ってきたオーディオファイルと、私のホーン・アレンジのファイルの日付は10/12/2012(※2012年10月12日)と記載されています。ですので、セッションはおそらくその日付から1週間以内に行われたと思われます。」

書き込み4(他のユーザーが皮肉交じりに「先週録音されたHornheadsやグレッグ・ボイヤーの音が追加されて〜」と書いたことへの返答)

「Hornheadsは、プリンスが亡くなって以降のトラックには何も追加していません。私をあのようなデタラメ(bullshit)と一緒にしないでください」

2026年9月2日:スパイサー氏によるSNS上での釈明

グレッグ・ボイヤー氏の証言がコミュニティ内で拡散・炎上したことを受け、スパイサー氏がSNS上で釈明文を投稿。発売当日の発言から一転し、曲中にあるプリンスのコール(「horns」)を理由として、没後にホーンを追加録音した事実を認めました。

【スパイサー氏による声明の全文訳】

先日(ペイズリー・パークでのリスニング・パーティ)私が申し上げた発言について、訂正したい点があります。

私は「Calabama」に関して、いかなる編集も追加も行われていないと述べました。

その後、実際にリリースされたバージョンにはホーンの追加が含まれていることを確認いたしました。したがって私の発言は正確なものではなく、自らの発言について責任を重く受け止めております。

追加されたホーンの演奏は素晴らしく、プリンスと活動を共にしたミュージシャンたちによって演奏されたものであり、彼らの貢献はとりわけ意義深いものです。

リリースの過程において、別バージョンやアレンジが採用されるケースは今後もあるかもしれません。しかし同時に、オリジナルの録音素材が真正(オーセンティック)であり続けること、そして何らかの追加や変更が行われる場合は、それが意図的であり、明確に理解・承認されたものであることが私たちにとっても極めて重要です。

ファム(熱心なファン)の皆様の情熱、細部への鋭い着眼点、そしてプリンスとこれらの録音作品へ注ぎ続けてくださる惜しみない愛に、心より感謝申し上げます。Rock On! ✌🏾

重大な説明責任の破綻と管理ミスを釈明する場でありながら、声明文を「Rock On! ✌🏾」というピースサインで結んでしまう軽さにも、大きな違和感が残ります。自分たちの招いた事態の重さを理解しておらず、まるで悪びれていないかのような態度は、誠実な向き合い方を求めてきたファンの気持ちを逆なでするものに映ってしまいます。

2026年9月4日:エステート(NPG Records / マネジメント)の公式声明

NPG Recordsおよびプリンス・マネジメント・チーム名義で正式な声明文が公開されました。

NPG Records & プリンス・マネジメント・チーム

親愛なる友人たち、ファム、そしてすべての皆様へ

『Timeless』に収録されたプリンスの楽曲「Calabama」のクレジット、録音時期、アレンジに関して懸念の声が寄せられていることを受け、より詳細な背景と経緯を説明し、明確にするため謹んでお答えいたします。

「Calabama」のブリッジ部分において、プリンスのボーカルは「horns(ホーン)」と2回コールしています。しかし、保管庫に残されていたマルチトラック音源では、その部分がシンセサイザーで埋められており、後にホーン奏者たちによってダビングされる形となっていました。過去の数々の録音におけるプリンスの作詞・作曲およびプロデュースのアプローチに則り、プリンスと共演経験のあるホーン奏者たちを招集し、プリンスのシンセトラックを「彼が意図していたであろうホーンのライン」でオーバーダビングしました。そして、このバージョンが『Timeless』に収録されました。

プリンス本人が録音したオリジナルパートはすべて損なわれずに残されており、そこにグレッグ・ボイヤー、エイドリアン・クラッチフィールド、リン・グリセットによるトロンボーン、サックス、トランペットが追加されました。これらのミュージシャンはプリンスと深い関わりがあり、一部で事実と異なる主張もなされていますが、アルバムのパッケージにもクレジットされています。「Calabama」を除き、『Timeless』に収録された他のいかなる音源にも没後のオーバーダビングは一切行われていません。当然ながら、いかなるプリンスの音楽にもAIは使用されていません。

今後につきましては、音楽のリリースに関してさらに詳細な情報を提供していく予定です。プリンスの保管庫(Vault)は膨大な規模と歴史的な深みを持っています。遺された録音物は多種多様な形態をとっており、その多くは単に未完成(unfinished)のままです。しかし、未完成だからといって、それらをリリースしない理由にはなりません。

「Calabama」の未完成部分を(プリンス自らが選んだミュージシャンを起用し、彼の創作意図に沿った形であったとしても)完成させたことに対して異議を唱える方もいれば、大いに支持してくださる方々もいらっしゃいます(そうした方々には感謝申し上げます)。プリンスの音楽やビジネスに関するすべての決定に誰もが同意するわけではないことは理解しておりますが、皆様の情熱、知識、そして思慮深いご質問には感謝しております。

最後に、特定の1人や2人の個人だけがプリンスのビジネスに責任を負っているわけではありません。私たちはプリンス・コミュニティ内で健全な対話を育みたいと願っております。プリンスに関連する事柄について鋭い質問を投げかけ、自らの心情や見解を主張することは正当な権利ですが、それは親愛の情と敬意、そしてプリンスの掲げた有名な理念である「Love For One Another(互いに愛し合おう)」の精神と共に行われることが最善です。今後の展開にもご期待ください。近日中にさらなる発表を予定しています。

タイムラインが示す客観的な事実

日付を追って整理することで、事態がどのように進展したのかが明確になります。

  • 説明の破綻:
    8月28日に「何も足していない」と断言した翌日以降、参加ミュージシャンの証言によって事実が明るみに出て、わずか数日で「意図を汲んで追加した」という弁明へと舵を切らざるを得なくなった経緯。
  • 制作プロセスの分断:
    2026年初頭にクリス・ジェームズ主導で打診され断ったとされるマイケル・B・ネルソン氏、2026年に自宅で録音したグレッグ・ボイヤー氏、そして時期の明言を避けたエイドリアン・クラッチフィールド氏と、関係者の証言がそれぞれ異なる背景を抱えていること。
  • 基本方針の転換:
    批判を受けた結果として出された公式声明において、謝罪や反省ではなく「未完成音源に手を加えて完成させる手法」そのものが今後の基本方針として宣言されたこと。

一連のタイムラインは、単なる1曲の表記ミスではなく、発売当日の虚偽説明から当事者の証言による露呈、そして組織による正当化に至るまでの、ガバナンスとドキュメンテーションの不透明さを浮き彫りにしています。

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