シーナ・イーストン / ノー・サウンド・バット・ア・ハート
Released:1987/7/17 | Label: EMI Records
Track List
- Eternity (4:17) P
- Still Willing To Try (4:06)
- Still In Love (4:33)
- Wanna Give My Love (3:55)
- The Last To Know (5:19)
- No Sound But A Heart (4:19)
- What If We Fall In Love (4:09)
- No Ordinary Love (4:42)
- Floating Hearts (6:32)
Personnel
Produce
- Prince (credited to David Leonard) (1)
- Keith Diamond (2, 6, 8)
- Narada Michael Walden (3, 7, 9)
- Phil Ramone (4)
- Nick Martinelli (5)
Written
- Sheena Easton
- Prince (1)
- Narada Michael Walden (2)
- Phil Gladston, Brock Walsh (5)
Guest
- Prince (all instruments [uncredited]) (2)
- Freddie "The Phantom" (Prince) (guitar) (2)
- Rocker Happyfeller (Prince) (keybords) (2)
アルバム・レビュー
アルバム制作の経緯とプロデューサー陣
『A Private Heaven』(1984年)でセクシー路線への転換を果たし、華々しいカムバックを飾ったシーナ・イーストン。しかし、シックのナイル・ロジャースを単独プロデューサーに迎えた次作『Do You』(1985年)は、音楽的な評価とは裏腹に商業的なセールスが思いのほか伸び悩む結果となりました。
そこで彼女の通算8作目となる本作では、起死回生を図るべく制作体制を一新。当時のヒット・チャートを席巻していたトップ・プロデューサー陣が招集されました。ホイットニー・ヒューストンらを手掛け当代随一のヒットメイカーだったナラダ・マイケル・ウォルデンをはじめ、ビリー・オーシャンで名を馳せたキース・ダイアモンド、ビリー・ジョエルらの諸作で名高い巨匠フィル・ラモーン、そして洗練されたフィリー・ソウル/R&Bを得意とするニック・マルティネリといった錚々たる顔ぶれが名を連ねています。
さらに、「U Got The Look」でのデュエットを終えたばかりのプリンスがオープニング曲「Eternity」を提供。ジャーニーのボーカリストであるスティーヴ・ペリーや、R&Bシンガーのユージン・ワイルドがゲスト参加するなど、レーベルの期待を一身に背負った豪華絢爛な布陣で制作が進められました。
しかし、アルバムの完成前後に所属レーベルのEMIアメリカがEMIマンハッタンへと吸収合併されるという組織再編の波に呑まれ、シーナとレーベル側の対立や先行シングルの不振も重なって、アメリカ本国でのアルバム発売が直前で中止・延期を繰り返した末にキャンセルされてしまいます。結果として日本やカナダ、メキシコなど一部の地域でのみ流通することとなり、ファンの間で「幻の名盤」として語られるアルバムとなりました。
楽曲について
前2作で見せたエッジの効いたダンス/エレクトロ・ポップ路線から一転、本作は80年代後半のアーバン・コンテンポラリーや大人の香りが漂うクワイエット・ストームを意識した、上質なミディアム〜スロー・バラードが中心に据えられています。
開幕曲となった「Eternity」は、デヴィッド・レナードがプロデュースとして名を連ねているものの、実質的にはプリンスがほぼ全編の演奏を手掛けたメロウで幻想的なR&Bナンバーです。プリンス特有の浮遊感あふれるシンセ・ワークとリリカルなギターに乗せて、シーナが情感豊かに歌い上げるこの曲は、アルバム全体の穏やかで洗練された空気感を象徴しています。
続く楽曲群も、各プロデューサーの持ち味が存分に発揮された粒ぞろいの内容です。ナラダ・マイケル・ウォルデンが手掛けた哀愁漂うタイトル曲「No Sound But a Heart」や、ユージン・ワイルドとの甘美な掛け合いが美しいデュエット・バラード「What If We Fall in Love」、そしてジャーニーのスティーヴ・ペリーがバッキング・ボーカルで華を添える「Still in Love」など、彼女の卓越したボーカル技術と繊細な表現力を際立たせる楽曲が並びます。また、ニック・マルティネリの手腕が光るアーバンなグルーヴの「The Next Time」や、キース・ダイアモンドによる都会的なミディアムなど、当時の米『Rolling Stone』誌が「ソウル・バラードに重きを置きつつ、強固なR&Bグルーヴで支えられた興味深い作品」と評した通りの充実した仕上がりを見せています。
セールス面やレコード会社のゴタゴタに振り回され、アメリカ本国でお蔵入りになってしまった不遇のアルバムですが、派手なギミックを排し、シンガーとしての表現力の成熟をしっかりと刻み込んだ、80年代シーナ・イーストンの語る上でも重要な作品です。
プリンスからの提供曲「Eternity」に関するエピソード
「U Got The Look」への返礼として贈られた名曲
アルバムのオープニングを飾り、先行シングルとしてリリースされた「Eternity」は、プリンスとシーナの深い信頼関係を象徴するナンバーです。
- 制作背景: 1985年12月、サンセット・サウンドにてプリンスがベーシック・トラックを録音。元々は未発表曲「Euphoria Highway」とともに、ジョージ・クリントンがプロデュースを手掛ける元ミス・アメリカの歌手ヴァネッサ・ウィリアムスのデビュー・プロジェクト向けに用意された楽曲でした(一時はジル・ジョーンズへの提供も検討されました)。しかし、ヴァネッサとレコード会社との契約が成立しなかったため、楽曲はお蔵入りとなっていました。
- シーナへのギフト: 1986年後半、プリンスのアルバム『Sign o' the Times』に収録される大ヒット曲「U Got The Look」に参加してくれたお礼として、プリンスからシーナへプレゼントされたのがこの「Eternity」でした。
- 歌入れと変名クレジット: 1987年1月頃、サンセット・サウンドにてエンジニアのデヴィッド・レナードのプロデュース、ランディ・ピーターソンのボーカル・アレンジ補助のもとでシーナが歌入れを行いました。クレジット上は作詞・作曲のみプリンスの本名が記され、プロデュースはデヴィッド・レナード、キーボードに「ロッカー・ハッピーフィラー(Rocker Happyfeller)」、ギターに「フレディ“ザ・ファントム”(Freddie "The Phantom")」というプリンスのユニークな変名が割り当てられています。
チャカ・カーンによる名カヴァー(1988年『CK』)
リリース当時は米英のチャートで振るわず埋もれてしまった「Eternity」ですが、翌1988年、思わぬ形で再び脚光を浴びることになります。
ファンクの女王チャカ・カーンが自身の8枚目のアルバム『CK』でこの曲をカヴァーしたのです。同アルバムにはプリンス自身も「Sticky Wicked」の楽曲提供・演奏で参加していましたが、「Eternity」のカヴァー・セッションには直接関与していませんでした。それでも、チャカの圧倒的なボーカルによって再解釈されたことで、ソングライターとしてのプリンスのペンによるこのメロディの美しさが広く再認識されるきっかけとなりました。
ジェシー・ジョンソンが参加した幻のB面曲「Shockwave」
「Eternity」のシングルのB面には、アルバム本編には未収録となったアップテンポなナンバー「Shockwave」が収録されました。この曲には、元ザ・タイム(The Time)のギタリストで当時ソロとしても大活躍していたジェシー・ジョンソンがソングライティングで参加しています。
12年越しの全米初リリース
長らくアメリカでは入手困難だった本作ですが、1999年にワン・ウェイ・レコーズ(One Way Records)からボーナス・トラック(前述の「Shockwave」や映画『きのうの夜は…』のサントラ提供曲など)を追加してリイシューされ、発表から12年を経てようやく全米で公式リリースを果たしました。
