バングルス / シルヴァー・スクリーンの妖精
Released:1986/1/2 | Label: CBS Records
Track List
- Manic Monday (3:03) P
- In A Different Light (2:50)
- Walking Down Your Street (3:02)
- Walk Like An Egyptian (3:21)
- Standing In The Hallway (2:53)
- Return Post (4:19)
- If She Knew What She Wants (3:47)
- Let It Go (2:28)
- September Gurls (2:42)
- Angels Don't Fall In Love (3:21)
- Following (3:18)
- Not Like You (3:05)
Personnel
Produce
- David Kahne
Written
- Prince (as Christopher) (1)
- Susanna Hoffs, Vicki Peterson (2, 6, 10)
- Louis Gutierrez, Susanna Hoffs, David Kahne (3)
- Liam Sternberg (4)
- Susanna Hoffs, David Kahne, Debbi Peterson, Vicki Peterson (5)
- Jules Shear (7)
- Susanna Hoffs, Debbi Peterson, Vicki Peterson, Michael Steele (8)
- Alex Chilton (9)
- Michael Steele (11)
- Susanna Hoffs, David Kahne, Debbi Peterson (12)
Member
- Susanna Hoffs (vocal, guitar)
- Vicki Peterson (guitar)
- Debbi Peterson (drum)
- Michael Steele (bass, guitar)
Produce
- Prince (all other instruments [uncredited]) (1)
アルバム・レビュー
アルバム制作の経緯とプロデューサー陣
1984年のデビュー作『All Over the Place』で、60年代ガレージ・ロックやフォーク・ロックを現代に蘇らせた”ペイズリー・アンダーグラウンド”の旗手として高い評価を得たバングルス。彼女たちがメジャー・シーンでのブレイクを目指し、1986年1月にコロンビア・レコーズからリリースした勝負作が本作です。
プロデューサーには前作に引き続き、後にブルース・スプリングスティーンやポール・マッカートニーらも手掛ける名匠デヴィッド・カーンを起用。前作で見せた粗削りでエッジの効いたギター・サウンドから一歩踏み出し、80年代半ばのラジオやMTVで映える洗練されたモダン・ポップへと大胆なシフトチェンジを試みました。
本作の大きな特徴は、バンド自身のオリジナル曲に加えて、外部の優れたソングライターによる楽曲を積極的に取り入れた点にあります。彼女たちのファンを公言していたプリンスが変名で書き下ろした「Manic Monday」をはじめ、ジュールズ・シアーの「If She Knew What She Wants」、そしてリアム・スターンバーグによる「Walk Like an Egyptian」といった強力な外部楽曲をアルバム前半のシングルに配置。緻密に磨き上げられたプロダクションと、メンバー全員がリード・ボーカルをとれる彼女たちの強みを掛け合わせ、全米2位を記録する特大のヒット作を生み出すことになりました。
楽曲について
アルバムのオープニングにしてグループの運命を決定づけたのはプリンスが提供した「Manic Monday」です。月曜日の憂鬱を歌うキャッチーなメロディと、60年代風のキラキラとしたチェンバロ調のキーボード、そしてスザンナ・ホフスの甘く切ないボーカルが見事に融合し、アルバム全体の爽快なトーンを鮮やかに決定づけています。
以降もジュールズ・シアーの原曲の視点を三人称に変えて繊細なコーラス・ワークを聴かせる「If She Knew What She Wants」、ユニークな手拍子と印象的なリフで全米1位に登り詰めたダンス・ポップ「Walk Like an Egyptian」、そして疾走感あふれるパワー・ポップ「Walking Down Your Street」と、秀逸な楽曲が揃っています。さらに、元ランナウェイズのベーシストであるマイケル・スティールがリード・ボーカルを務めるアコースティックで内省的なバラード「Following」など、単なるアイドル的ガールズ・バンドにとどまらない音楽性もしっかりと提示されています。
リリース当時は、初期のガレージ感を愛するリスナーの間で「洗練されすぎたのではないか」という議論もありましたが、時を経た現在聴いても楽曲の瑞々しさは色褪せていません。60年代のビート・ポップ直系の美しいヴォーカル・ハーモニーを、80年代のクリアな音像の中に見事に着地させた、同年を代表するアルバムの1枚だと思います。
「Manic Monday」にまつわるエピソード
バングルスへのアプローチと2曲のデモテープ
プリンスがバングルスに強い興味を抱いたきっかけは、彼女たちの1984年のデビュー・アルバムに収録されていた「Hero Takes a Fall」のプロモーション・ビデオと、そのガレージ・ポップ・サウンドを大変気に入ったことでした。
- バングルスと同じスタジオに居合わせたプリンスは、同年5月、彼女たちが姉妹スタジオのサウンド・ファクトリーでセカンド・アルバムの制作に入ったタイミングで楽曲提供を打診しました。
- 持ち込まれた2つの候補: プリンスは2インチ・テープに録音された2曲のデモを用意していました。それが「Manic Monday」と、もう1曲の未発表曲「Jealous Girl」です。バンド側は自分たちの音楽性により適していると判断し、「Manic Monday」を取り上げることを選びました。
「クリストファー」名義と『Apollonia 6』からのお蔵入り
作詞・作曲クレジットには、プリンスの本名ではなく「クリストファー(Christopher)」という変名が使われました。これは当時プリンス自身が監督・主演を務めて制作していた映画『Under the Cherry Moon』の主人公クリストファー・トレイシーにちなんだものです。
- アポロニア6用のストック: 「Manic Monday」の原型は古くから存在し、1984年2月4日にサンセット・サウンドでプリンス自身によってベーシック・トラックが録音されていました。当初はアルバム『Apollonia 6』向けにプリンスとアポロニアのデュエット曲としてトラックリストにも組み込まれていましたが、最終的にアルバムから外され、ストックとして保管されていた経緯があります。
- バンド自身による完全な新録: 長年ファンの間では「プリンスが録音したバック・トラックを一部流用して歌入れしたのではないか」とも推測されていましたが、2012年の音楽メディア『Songfacts』のインタビューで、スザンナ・ホフスは次のように語り、その噂を明確に否定しています。
「いいえ、彼(プリンス)が演奏に参加したわけではないの。あのトラックは、私たちが完全にイチから作り上げたものなんです。彼から手渡されたカセットテープには、彼の歌とキーボード、それにドラムループが入っていただけでした。だから私たちはプロデューサーのデヴィッド・カーンと一緒に、すべてゼロから音を組み立てていったのよ」
全米チャートの頂点を争った「Kiss」とのワンツー
1986年春、「Manic Monday」はビルボードのシングル・チャート(Hot 100)でグループ初となる全米2位の快挙を達成しました。
- 1位を阻んだプリンス自身のヒット: このとき、全米1位の座に君臨して「Manic Monday」のトップ獲得を阻んだのが、他ならぬプリンス&ザ・レヴォリューションの「Kiss」でした。
- ソングライターとしての独占劇: 自らの名義によるシングルで1位を獲得し、変名で他人に提供したシングルで2位を抑えるという、ソングライターとしてのプリンスの圧倒的な影響力と多作ぶりを象徴する出来事となりました。
2019年のアーカイヴ解禁(『Originals』)
プリンス自身がリード・ボーカルを執る1984年のオリジナル・バージョンは、長らく公式リリースされないままでしたが、2019年に発表された他者提供曲のオリジナル音源集『Originals』の3曲目に収録され、35年の時を経て正式に世に出ることとなりました。アルバム発売に合わせて公開されたプロモーション・ビデオには、1984年にミネソタ州イーディン・プレイリーのフライング・クラウド・ドライブ倉庫でプリンスとザ・レヴォリューションが熱心にリハーサルを行う貴重なフッテージが使用されています。
