ウェルカム・2・アメリカ
Released:2021/07/30 | Label: SONY, NPG Records
Album
Track List
- Welcome 2 America (5:23)
- Running Game (Son Of A Slave Master) (4:05)
- Born 2 Die (5:03)
- 1000 Light Years From Here (5:46)
- Hot Summer (3:32)
- Stand Up And B Strong (5:18)1
- Check The Record (3:28)
- Same Page, Different Book (4:41)
- When She Comes (4:46)
- 1010 (Rin Tin Tin) (4:42)
- Yes (2:56)
- One Day We Will All B Free (4:41)
Personnel
Produce, Arranged, Composed
- Prince
- Morris Hayes (aka Mr. Hayes) (Co-Produce)
Written
- Prince
- Dave Pirner (6)
Musicians
- Prince (all vocals and instruments)
- Morris Hayes (aka Mr. Hayes) (keyboards, percussion) (1, 2. 3, 7, 8) (keyboards) (11) (strings) (3) (drum machine) (7)
- Tal Wilkenfeld (bass) (1-3, 5-9, 11, 12)
- Chris Coleman (drums) (1-3, 5-9, 11, 12)
- John Blackwell (drums) (4)
- Shelby J. (co-Lead vocal (2) (backing vocals) (1, 3-5, 6-8, 10-12)
- Elisa Dease (co-Lead vocal (6) (backing vocals) (1-5, 7, 8, 10-12)
- Liv Warfield (backing vocals) (1-8, 10-12)
アルバム・リリースまでの動き
20tenからWelcome 2 Americaへ
2010年7月4日にデンマークからスタートした〈20ten tour〉。
10日にはタイトルの「20ten」をイギリスのDaily Mirror紙などの複数誌に付録として配布と、ヨーロッパを皮切りにワールド・ツアーを行うと思われていましたが、10月14日NYアポロ・シアターで〈WELCOME 2 AMERICA〉ツアーを開催する事を発表しました。
会見では、ツアーにはジャネール・モネイ、ミント・コンディション、エスペランサ・スポルディング、カサンドラ・ウィルソン等がゲスト参加すると告げ、更に"no two shows will be the same. I have a lot of hits …(同じショーは2つとないよ。僕は沢山のヒット曲を持っている。)”と何度も足を運ぶ価値があると宣言した通り、2010年12月ニュージャージー州イーストラザフォードからスタートしたツアーは、翌年7月から舞台をヨーロッパ、カナダ、そして2012年5月のオーストラリアと大規模に行われました。
20tenと平行してアルバムを製作
本作は同ツアーに合わせるため製作されたもので、公式情報によればレコーディングは2010年3月頃に行われていたという。つまり「20ten」のリリース時では既に完成していた事となります。
付録として配布した「20ten」は新しいファン層を獲得する"呼び水"的な作品で「Welcome 2 America」が本命という考える事も出来ますが、〈Welcome 2 America Tour〉発表の約一週間前となる2010年10月8日フランスのラジオ局〈Europe 1〉は、新曲”Rich Friends”のクリップと共に同曲が新しいアルバム「20ten Deluxe」に収録されると発表、14日にはニューヨークのラジオ局でフル尺で流したした事から、2作並行して制作していたものと思われます。(コレ位の事は平気でやりますしね)
ただ、10月18日から〈Prince Live 2010〉と名を変え11月18日までヨーロッパ5カ国でツアーを続けていた事もあり、「20ten Deluxe」を出すには旬を過ぎ、12月から始まるツアーまでに「Welcome 2 America」をリリースするにはプリンス自身納得がいかなかったのか、結果的に”二兎を追う者は一兎をも得ず”状態でどちらもお蔵入りとなりました。
お蔵入りの要因としては政治的なメッセージが強かった事が考えられますが、プリンスはこれまで何曲も同様の曲をリリースしているのでそれだけではないでしょう。完成した時点で自身の中で納得した、後述するレコーディングしたメンバーでツアーが難しい、同名ツアーと絡めてしまうとファンが純粋に楽しめないかもしれないという想い...色んなタイミングが重なりお蔵入りになったと思われます。もし2010年3月まで運営していた公式サイトを継続していたら会員向けだけでもリリースしていたかもしれません。
アルバム・レビュー
未発表となってから11年後となる2021年2月、プリンス・エステートのアーキビスト、マイケル・ハウ(Michael Howe)氏の口から6月か7月頃に「Welcome 2 America」が出るというインタビュー記事が掲載、その約束通り4月に正式にリリースされる事が発表されました。
これまでスーパーデラックスなど未発表を含むデラックス盤がリリースされましたが、本作は100%納得してなかったにせよプリンスの意思で制作された〈初の未発表スタジオ・フル・アルバム〉となります。
タル・ウィルケンフェルドを中心としたユニット
プロデュースは勿論プリンスですが、今作ではNPGのMr.ヘイズことモーリス・ヘイズがコ・プロデュースを担当、バンド・メンバーはバック・ヴォーカルを務めるシェルビー・J、リヴ・ウォーフィールド、エリサ・フィオリーロが参加しています。
特筆すべきは演奏者で、これまでプリンスを支えたNPGのメンバーを起用(Mr.ヘイズとジョンを除く)しなかった事。
ジェフ・ベックやハービー・ハンコックとの共演でも知られる若きベーシスト(当時22歳)タル・ウィルケンフェルド(Tal Wilkenfeld)に興味を持ったプリンスは2008年に自らタルにコンタクトを取りLAでセッションをおこないました。そこで友情を構築すると”トリオを結成したいから君が共演したいドラマーを選んでくれないか”と一任。彼女は候補の中からチャカ・カーンやBECK等を共演経験のあるドラマーのクリス・コールマン(Chris Coleman)を迎えるとタルを中心の据えた構成による3人によるセッションで制作されています。
タルとクリスの証言によれば、2010年の3月と4月に録音されたもので、事前に曲を聴くこともなくプリンスの指示を注視しながら1~2テイクでレコーディング。ヴォーカルやコーラスは後に入れられたたそう。
10年経った今も刺さるメッセージとサウンド
エステートの発表によると2010年当時プリンスは...
“The world is fraught with misin4mation. George Orwell’s vision of the future is here. We need 2 remain steadfast in faith in the trying times ahead,”
「世の中は偽情報に溢れかえっている。ジョージ・オーウェルが警告していた未来そのものだ。僕たちはこのようなチャレンジングな時代を信念曲げずに生きなければならない」
ジョー・オーウェルの小説『1984』を例に、来たるべき将来への警告とも取れるメッセージ性の強いタイトル・トラックを含んだ作品です。
’98年の”The War”に通じる静かに語りかけるヴォーカルで、GoogleやiPhone等の利用したネット社会やマスメディアによる情報過多、音楽産業や教育に対する警鐘...10年以上過ぎた今でも古びる事もなく突き刺さってくる歌詞とシェルビー達バック・コーラスが印象的な"Welcome 2 America"を筆頭に、シェルビー、リヴ、エリサ達コーラス・チームを立てプリンスは更に一歩引いた形で参加したジャジーなナンバーに仕上げた"Running Game (Son of a Slave Master)"、カーティス・メイフィールドを連想させる様なファルセット・ヴォイスも印象的な"Born 2 Die"は、プリンスの友人でもある哲学者のコーネル・ウエスト博士が話した「私はブラザー・プリンスを愛しているが、彼はカーティス・メイフィールドではない。」が影響されたと言われる一曲、そしてアナログ盤のラストを飾る"1000 Light Years From Here"は"Black Muse"(「HitnRun Phase Two」収録)の後半に組み込まれた楽曲で念願のオリジナル・バージョンが収録されました。
中盤は、52歳の誕生日となる2010年6月7日にミネソタ州のラジオ局"89.3 The Current“で流れた唯一の既発曲となる"Hot Summer"、ミネアポリスのロックバンドソウル・アサイラム(Soul Asylum)の「The Silver Lining」('06)に収録のカヴァー曲"Stand Up and B Strong"、3rdeyegirlによって演奏された事のある”Check The Record”、宗教による解釈の違いと戦争に対するメッセージ・ソング”Same Page, Different Book”が収録。
後半は、「HitnRun Phase Two」に収録された”When She Comes”のベーシック・トラック版、プリンスが全ての演奏をこなしたスロウ・ファンクの"1010 (Rin Tin Tin)"、チアリーディング・ソングの様なポジティブなサウンドと多角的に捉える事の出来る歌詞が意味深な”Yes”、ラストの”One Day We Will All B Free”は明るいサウンドながらアメリカ合衆国で最初の重要なアフリカ系科学者のベンジャミン・バネカーの功績やジョージ・ワシントンやベンジャミン・フランクリンに対するメッセージ・ソングで作品を完結させています。
楽曲については以前解説したので詳しくはこちらを御覧ください。
参考「Welcome 2 America」収録曲のまとめ
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Youtubeで全曲視聴可
Live (Blu-ray)
日本のデラックス盤及びスーパー・デラックス・エディションには2011年4月28日にカリフォルニア州イングルウッドで開催されたライブ映像が同梱されています。
Live (Blu-ray)
Setlist
- Joy In Repitition
- Brown Skin (India.Arie cover)
- 17 Days (inc. lovergirl)
- Shhh
- Controversy
- Theme From “Which Way Is Up” (Stargard cover)
- What Have You Done For Me Lately (Janet Jackson cover)
- Partyman
- It’s Alright (Graham Central Station cover)
- Make You Feel My Love (Bob Dylan cover)
- Misty Blue (Eddy Arnold cover)
- Let’s Go Crazy
- Delirious
- 1999
- Little Red Corvette
- Purple Rain
- The Bird (The Time cover/Prince comp)
- Jungle Love (The Time cover/Prince comp)
- A Love Bizarre (Sheila E cover/Prince comp
- Kiss
- Play That Funky Music (Wild Cherry cover)
- Hollywood Swingin’ (Kool & the Gang cover)
- Fantastic Voyage (Lakeside cover)
- More Than This (Roxy Music cover)
Personnel
Written (Live)
- Mark Batson, Shannon Sanders, India.Arie (2)
- Prince, Lisa Coleman, Dr. Fink, Wendy Melvoin (3)
- Norman Whitfield (6)
- Janet Jackson, Scott McCallum, Jimmy Jam & Terry Lewis (7)
- Larry Graham (9)
- Bob Dylan (10)
- Bob Montgomery (11)
- Morris Day, Prince, Jesse Johnson (18)
- Sheila E., Prince (19)
- Robert Parissi (21)
- Robert "Kool" Bell, Ronald Bell, George M. Brown, Robert "Spikes" Mickens, Claydes Charles Smith, Dennis R. Thomas, Richard A. Westfield (22)
- Fred Alexander Jr., Norman Beavers, Marvin Craig, Fred Lewis, Tiemeyer McCain, Thomas Shelby, Steve Shockley, Otis Stokes, and Mark Adam Wood, Jr. (23)
- Bryan Ferry (24)
Musician (Live)
- Prince (vocals, guitar, bass, keyboard)
- John Blackwell (drums)
- Ida Nielsen (bass, vocals)
- Morris Hayes (keyboards)
- Renato Neto (keyboards)
- Cassandra O’Neal (keyboards, vocals)
- Shelby J. (vocals)
- Elisa Dease (vocals)
- Liv Warfield (vocals)
- Maya McClean & Nandy McClean (The Twinz) (dance)
- Ledisi (vocals) (8-9)
当時購入を検討してた
LAで行われた21Nightの会場で老舗アリーナのザ・フォーラムは当時売りに出されており、その事に心を痛めたプリンスは会場を購入しようかと検討したと言われています。
(2012年6月に所有者がマディソン・スクエア・ガーデン社に譲渡した)
【ハリウッドより愛をこめて】プリンス、老舗アリーナ買収で音楽界に改革起こす? | cinemacafe.net
www.cinemacafe.net
ティーナ・マリーへ捧げる曲
2010年12月26日、リック・ジェームスのバックアップを得て1979年にソロ・デビューしたティーナ・マリーがこの世を去りました。
ティーナは翌年開催されたプリンスの〈Dirty Mind Tour〉ではサポート・アクトを務め、彼女のバック・シンガー(作曲にも関与)を努めていたジル・ジョーンズと出会うなどプリンスと縁のあるアーティストでした。
3日後となる12月29日に行われた〈Welcome 2 America Tour〉でプリンスは彼女の為に"Uptown"を捧げましたが、本作のライブでも「17 Days」にティーナの代表曲"Lovergirl"を内包するなど追悼していました。