イングリッド・シャヴェイズ / イングリッド・シャヴェイズ
Released:1991/9/24 | Label: Paisley Park Records, Warner Bros.
Track List
- Heaven Must Be Near (7:07) P
- Hippy Blood (4:55)
- Candle Dance (3:43) P
- Elephant Box (3:51) P
- Slappy Dappy (4:05) P
- Little Mama (4:57)
- Jadestone (0:44) P
- Wintersong (3:53)
- Spiritual Storm (1:41)
- Sad Puppet Dance (3:51)
- Whispering Dandelions (1:59) P
Personnel
Produce
- Prince (1, 4, 5, 7, 11)
- Levi Seacer Jr. (10)
- Ingrid Chavez, Michael Koppelman (2, 6)
- Michael Koppelman (3, 8, 9)
Written
- Ingrid Chavez, Prince (4, 5, 7)
- Ingrid Chavez, Prince, Levi Seacer, Jr. (1)
- Ingrid Chavez, Levi Seacer, Jr. (10)
- Ingrid Chavez, Michael Koppelman (2,3,8)
- Ingrid Chavez, Michael Koppelman, Sparquelee Antoni (6)
Additional Musician
- Prince (all instruments) (1, 4, 5, 7, 11) (keyboard, guitar) (3)
- Levi Seacer, Jr. (instruments) (1)
- Michael Koppelman (all instruments) (3)
アルバム・レビュー
アルバム制作の経緯とプロデューサー陣
1987年末、ミネアポリスの街でプリンスと運命的な出会いを果たし、プリンスに”スピリット・チャイルド”と呼ばれ映画『Graffiti Bridge』(1990年)のヒロイン・オーラ役にも抜擢された詩人/アーティスト、イングリッド・シャヴェイズ。彼女が1991年9月にペイズリー・パーク・レコーズからリリースした唯一のアルバムが、本作です。
本作のベースにあるのは、1987年12月中旬、『The Black Album』のリリースを直前で販売中止にしたプリンスが、ペイズリー・パーク・スタジオでイングリッドと共に行った即興のポエトリー・リーディング・セッションでした。プリンスが奏でるピアノやオルガンに合わせて彼女が自作の詩を朗読したこの時の録音は、長らく温められることになります。
その後、映画『Graffiti Bridge』の公開を経て、1991年3月から4月にかけてノース・ハリウッドのララビー・サウンド・スタジオにて本格的なトラック制作を再開。プリンスは当時のイングリッドのボーカル・テイクをそのまま活かしつつ、バックのトラックを新たに録り直してアルバム用へと仕上げました。
プロデュースは、プリンス(ペイズリー・パーク名義)が手がけた5曲をはじめ、ニュー・パワー・ジェネレーション(NPG)のリーヴァイ・シーサー・ジュニア、そして『Graffiti Bridge』期からエンジニアとしてプリンスを支えていたマイケル・コッペルマンが担当。彼女の囁くような語りと、プリンス達による新たなアプローチが溶け合った、独特の魅力を持つ1枚に仕上がっています。
楽曲について
本作の大きな特徴は、プリンスの王道サウンドとは一線を画す、無機質な打ち込みとアンビエントな空気感にあります。メロディを歌い上げるのではなく、彼女の詩を囁くように語る「スポークン・ワード」のスタイルが徹底されており、淡々としたビートと柔らかなシンセサイザーが重なって、心地よい浮遊感を生み出しています。
オープニングの「Heaven Must Be Near」は、ゆったりとした太いビートに乗せて、効果音や『Lovesexy』でもおなじみの「Clap your hands, stomp your feet」という囁きが散りばめられたトラックです。プリンスが関わった曲の中では、90年代らしいタイトなリズムが心地いい「Elephant Box」や、少しテンポを上げた「Slappy Dappy」、詩人らしく語りかける短い「Jadestone」、そしてピアノのバッキングがそのまま生かされたラストの「Whispering Dandelions」まで、どれもシンプルながら独特の余白を持った仕上がりになっています。
さらに、マイケル・コッペルマンが手掛けプリンスがさりげなくギターと鍵盤を添えた「Candle Dance」や、リーヴァイ・シーサー・ジュニアによる「Sad Puppet Dance」、そして後に日本でCM曲にもなった軽快な「Hippy Blood」など、仲間たちによるトラックもアルバムの流れに綺麗に溶け込んでいます。
チャートで目立つような派手さはありませんが、プリンスがここまでアンビエント寄りの音作りに徹した例は珍しく、静かな夜にゆったりと浸りたくなるような不思議な魅力を持った1枚です。
楽曲に関するエピソード
タイトル表記の真相:『May 19, 1992』ではなくセルフタイトル
本作はジャケットに手書きされた「May 19, 1992」がアルバム名として広く知られていますが、公式の表記は『Ingrid Chavez』です。
イングリッド本人は後に、「ジャケットに書かれているのは単なる日付であって、正式なアルバム・タイトルではないの。アルバムに収められた詩はどれも私の日記のようなものだから、人生のある一章を切り取った日記のエントリとして、あの日付を表紙に掲げることにしたのよ」と語っています。
「Heaven Must Be Near」と『Lovesexy』の繋がり
アルバムの象徴的なオープニング曲「Heaven Must Be Near」には、プリンスとの濃密なリンクが隠されています。
- メロディの継承: 1987年12月のセッションでプリンスがこの曲のボーカルに合わせて即興で弾いていたピアノのメロディは、翌月(1988年1月)にレコーディングされたプリンスの名曲「I Wish U Heaven」のフレーズへと発展していきました。
- サンプリングの出処: 曲中でループされる「Clap your hands, stomp your feet」という囁き声は、アルバム『Lovesexy』の冒頭「Eye No」からサンプリングされたものです。さらに、BBC音響効果部門(BBC Radiophonic Workshop)が1976年に発表した効果音アルバム『Out Of This World』から「Sea Of Mercury」と「Passing Clouds」の2曲がサンプリングされており、独特のスペーシーな世界観を構築しています。
- ラジオでの先行公開: 1989年12月9日、ミネアポリスの地元ラジオ局KMOJの番組『The New Power Generation Radio Show』にて、プリンス(変名「Me, Myself and I」)、リーヴァイ・シーサー・ジュニア(変名「Michael Anthony」)、そしてイングリッド自身の3人がホストを務める形で、完成したばかりのこの曲がいち早くオンエアされました。
「Whispering Dandelions」について
プリンスがプロデュースした5曲(「Heaven Must Be Near」「Elephant Box」「Slappy Dappy」「Jadestone」「Whispering Dandelions」)のうち、他の4曲は1991年に新たなバック・トラックへと差し替えられましたが、ラストを飾る「Whispering Dandelions」だけは例外でした。
この曲だけは、1987年12月のペイズリー・パークで行われた最初の即興セッションでプリンスが弾いたオリジナルのバッキング演奏がそのまま消されずに残され、1991年に効果音などが追加されて完成しました。
PARCOの春のCMソングに起用
アルバムからのセカンド・シングルとなった「Hippy Blood」(マイケル・コッペルマン&イングリッド制作、リミックスはペイズリー・パーク名義)は、翌1992年、日本のファッションビル「PARCO(パルコ)」の春のキャンペーンCMソングとしてテレビ放映されました。
Music Video
公式ショップではLong Boxを販売
長年メジャー流通では廃盤状態が続いており、中古市場でも入手困難な1枚となっていますが、イングリッド・シャヴェイズ本人の公式Bandcampページにて当時のオリジナルCD(ロング・ボックス)が販売されています。
一時は50ドルで出品され早々に完売し、その後100ドルで再販されるなど、現在も熱心なコレクターから高い注目を集めています。
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May 19, 1992 | Ingrid Chavez
ingridchavez.bandcamp.com
